Kamimura & Co.は、デザイナーの神村誠とディレクターの神村さちが共同設立したデザインスタジオです。スタジオでは、ブランドや企業のビジュアルアイデンティティ設計を中心に、全体的なアプローチで様々な領域のデザインを行なっています。また、昨年から自分達が作ったタイプフェイスを販売するためのタイプファウンドリー、Detail Type Foundryの運営も始めました。
私達のスタジオでは、どのようなプロジェクトであってもリサーチとディスカッションを重視しています。私達は新しいことを知ったり話し合ったりすることが好きです。何より、歴史を辿り、本質について考えることは重要です。それは芸術的な側面であっても、マーケティング的な側面であっても同様です。大抵の場合、リサーチは私達の偏った考えを自由にしてくれます。書籍のデザインが埋葬儀礼に辿り着くこともありますし、タイプフェイスが量子力学に辿り着くこともあります。ある程度リサーチが進むと、それをもとにスタジオ内でディスカッションをし、プロジェクトにとって最適な方法を探ります。それぞれの肩書きは異なりますが、ここまでの仕事は全て共同で行います。もちろん、クライアントともよくディスカッションをします。私達はクライアントに思考や発想を求められているので、チームの一員として対等な立場で意見を伝えるようにしています。本音で議論を深めていくことが、プロジェクトを良い結果に導くためには不可欠です。
私達は、結果として現れるビジュアルは氷山の一角でしかないと思っています。それは、一つのビジュアルの背景には、実際にはその何倍ものプロセスがあるからです。特にビジュアルによるコミュニケーションは、どのようなものであっても強い力を持っているので、私達はその力をどう扱うかをいつも慎重に検討します。私達の世界が自分一人で完結することがないように、ビジュアルも周りの環境と影響を及ぼし合います。私達は、広い環境の中でビジュアルがどう立ち振舞うべきかを常に考える責任があるとも感じています。このような制約の中、最小限の手段で最大の効果を生み出そうと考えると、大抵の場合は、細部のモジュール、すなわちタイプフェイスのデザインが重要になってきます。
これまで私達はビジュアルアイデンティティのプロジェクトの一環として、特定のブランドのためのタイプフェイスを作ってきましたが、自主的に企画・制作したタイプフェイスを一般販売するプラットフォームとして、2018年11月にDetail Type Foundryを始めました。デザインスタジオとして様々なプロジェクトに携わってきた知識と経験をもとに、既成概念にとらわれないタイプフェイス、多様な文化のためのタイプフェイスを提供することがDetailの目的です。Detailでは私達自身がプロジェクトの主体となり、常に新しい挑戦をしています。
例えば、最初にリリースしたAstroは、現代のテクノロジーやサイエンスに呼応するタイプフェイスを目指しました。彫刻家のブランクーシが飛行機のプロペラに美しさを見出したように、先端科学における造形は従来とは違う新しい美しさを感じさせます。ただし、そのようなまだ美的価値の定まらないものを、美しいと考えるか、つまらないものと考えるかは、見る人によって全く異なります。私達は美しさとは何かを問うようなものが好きなのです。
タイプフェイスのデザインは、自分達が想像する以上に影響を与える範囲が広く、メディアも国境も横断して広がっていきます。影響の大きなプロジェクトでは制約や責任も増えますが、意義のある仕事に挑戦できるのはとても嬉しいことです。また、Detailを始めてから、これまでよりも世界のデザイナーとの交流が増えてきました。交流を深める中で、私達はまた新たな課題を発見できます。言語の違いによる文化の違い、文化の違いによるデザインの違い…私達の興味は尽きそうにありません。